素材のことを尋ねた

ぼんくらの私には、「誰が作ったかに関係なく売り物になるモノ」を0から思いつくのは難しい。
自分にできる範囲から探すことにした。


私は、以前から趣味で絵を描いたり飛び出すカードを作っていた。

飛び出すカードだけは、人に見せると,よく、「凄い」とか「売れるよ」と言っていただけた。

言い方を変えると、「欲しい」と言われたことはなかった

ただ、同時に、これをペーパー加湿器にすれば良いのに、という声は何度も聞いていた。

見てくれだけで勝負できないことには全く同意だ。

一点もののアートならいざ知らず、就労を目標とした訓練で使ってもらいたいのだから、成功すれば同じ形のものが量産されることになる。

この程度のデザインで、人様に欲しいと思ってもらおうなどと目論むためには、少なくとも飾る以外の用途は必要なのだ。


アイデアが出るまで悠長に待つわけにはいかない。

そのまま、まっすぐ、ペーパー加湿器の案に飛びつくことにした。


思い返せば愚かな話だが、当初は、素材は簡単に手に入ると考えていた。

現にペーパー加湿器は多くのメーカーから普通に販売されている。

あれの素材を調べ、それで飛び出すカードを作ればよい。

そんなことはきっと簡単だろうからと、まずは、簡単に組み立てられるが見た目は複雑な構造の検討に没頭した。

年の瀬も押し迫る頃、基本的な構造が見えてきたので、素材探しを始めると、これが見つからぬ。

販売されているペーパー加湿器は、大抵「ポリエチレン特殊不織布」でできている。

だが、同名の商品をネットやホームセンターで探せば、コシのない布のようなものしか見当たらぬ。

仕方がないので、いくつかのペーパー加湿器のメーカーに問い合わせてみると、なんと素材は自社開発のものであり、もちろん素材は売れぬと言う。

そこに至って気付いたが、ペーパー加湿器のメーカーには、ケミカル系の企業が多い。

コシのある「ポリエチレン特殊不織布」は、各々の企業が独自に生産しているのだ。

何社か問い合わせていると、ある1社の窓口に、鼻で笑われた(と感じた)。
個人様ではちょーっと難しいかと存じます。

わかった、もう頼まん。
私はそこいらで手に入る材料で、自社開発の素材とやらと同等の性能を実現してやる。


しばらくは、水を吸ってもコシがある紙を探していた。
紙については詳しくもなんともないので、和紙を中心に探した。
結局、これは失敗だった。

紙の原料がパルプだろうがコウゾだろうが、原料の繊維の段階で吸水すると膨張するのだ。
吸水性の高さとコシは矛盾する。


そこで、今度は、完全に耐水性のある紙を探した。
それに吸水性がある布を接着すれば、吸水性はあるが、コシのある素材が出来上がるではないか。それにどちらもそう高額な素材ではなさそうだ。

私は実は天才じゃないかと浮かれるのも束の間、今度は、水を吸わせても剥がれない「紙と布の接着技術」が必要になった。

剥がれなければ良いというものではない。手間がかかる手段ではだめなのだ。
素材作りで時間がかかってしまっては、日中はサラリーマンの私に数を作ることは不可能だ。

それにしても、接着技術は、如何にも幅が広く、どこから手をつけたものやら皆目見当がつかぬ。

困った時の何とやらだ。私は、細い細いパイプを辿り、布を(布も)使うアーティスト、M.R氏に相談することにした。

ありがたいことに、次から次へとと尋ねる私に閉口せず、それはもう、なんでも丁寧に教えていただけた。まるで頭が上がらぬ。おまけにかわいい。


結果、なんと、接着剤の塗布も不要で、いきなり数秒で接着可能、耐水性は元から保証済みという、これ以上無い「うまい手」に到達できたのだ!

順風満帆とはこのことだ!

2016年の1月、私は浮かれていた。

ペーパー加湿器型アート ACONS Ray-Noale

クラウドファンディング デザイン多様・自然蒸発の16倍・発達障がい者が生産可能 「飛び出すペーパー加湿器」プロジェクト